小児科・アレルギー科・小児皮膚科

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2024年4月

すばらしい人体と医学   4月8日

 私は小学校の時から社会が大好きで、家に置いてあった全20巻の百科事典の社会系(地理や歴史)の10冊は何度も読んでいました。一方で理科系の事典は興味がわかず、読む気になりませんでした。機械類にも興味なく、高校に入って文科系と理科系の進路を決める時にも迷わず文科系を選択しました。物理はもちろん、化学にも生物にも興味は持てず、大学は文学部に進みました。事情があり医学部を目指すことになり、化学を受験用に勉強し何とか医学部に合格しました。入学後の教養部では理科系の科目に歯が立たずぎりぎりの成績で専門科目の始まる3年生になることができました。

 しかし、生理学・病理学を学び始めると、俄然勉強が面白くなりました。「医科生理学展望」「ガイトンの生理学」および病理学の「Basic Pathology」などの教科書を読んでいると、夢中になり時間が過ぎるのも忘れました。ヒトの体の中で起きていることを学ぶことは、とても知的好奇心をくすぐられ楽しかったのです。

 外科医の山本健人氏の著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社 2021 2023)を読むと、改めて医学生の時に味わっていたヒトの身体を知ること、そして医学の発見の歴史を知ることの楽しみを思い出させてくれます。

 興味深かったところをいくつか挙げてみます。

 GLP-1受容体作動薬:最近、糖尿病治療薬としてだけでなく、やせ薬としても知られるようになったこの薬は、アメリカドクトカゲの毒から発見された成分をベースに開発されました。この事実は、自然界の生物から得られる知見がどれほど医学に貢献しているかを示しています。

 放射能の発見とその誤用:キュリー夫妻とベクレルによる放射能の発見は、その時点で人体への影響が完全には理解されておらず、ラジウムを含む製品が健康に良いと宣伝された時期がありました。これらの製品の中には、歯磨き粉や夜光塗料などがあり、特に夜光塗料を塗る若い女性作業員の間で重篤な健康被害(顎の骨の障害や白血病など)が発生しました。

 消毒の歴史:18世紀までヨーロッパでは、瘴気説が流行病の原因と信じられていましたが、ジョン・スノウとイグナーツ・ゼンメルヴァイスの努力が後の消毒法の発展につながりました。スノウはコレラの原因を水によるものと特定し、ゼンメルヴァイスは産褥熱の予防に手洗いの重要性を訴えましたが、当時は広く認められませんでした。リスターによる消毒法の改良が医学界で認められるまで、時間がかかりました。

 麻酔法の発展と論争:麻酔法の発明に関するアメリカの論争や、その過程での歯科医のウェルズとモートンの努力と挫折は、医学の発展における個人の貢献と悲劇を浮き彫りにします。

 外科手術技術の進歩:自動縫合器の発展や、手術中にガーゼを数える難しさを克服するためのディープラーニング技術の応用など、外科医ならではの話が面白かったです。

  以前に読んだことのあることも多くありましたが、何度読んでも医学の素晴らしさとその歴史の深さを認識させられます。山本先生の本はお勧めです。

2024年3月

行動経済学的勉強の促し方   3月23日

行動経済学は、人々の意思決定プロセスにおける心理的、社会的、感情的な要因を研究する学問です。この学問は、教育や子どもの勉強習慣に対しても興味深い情報を提供してくれます。そこで、行動経済学の原理を応用して子どもたちが勉強にもっと関心を持つよう促す方法について、具体的なアプローチを「行動経済学の使い方」(大竹文雄著 岩波新書 2019)「心のゾウを動かす方法」(竹林正樹著 扶桑社 2023)などを参考にして紹介してみます。

 竹林氏は人の心を象(直感)と象使い(理性)の関係で説明しています。象は力がとても強く頼もしい存在ですが、自分のことが好きで面倒くさがりで、損をするのが大嫌いという性格があり、情報を歪んで解釈する習性(認知バイアス)があります。それに対して、象使い(理性)は普段は休んできますが、象(直感)では対応が難しい重要な判断が必要な時に出てきて働きます。しかし、象使いの発動には多大なエネルギーが必要で、すぐにパワーが枯渇してしまいます。行動経済学的な考えを利用することで象使い(理性)の消費エネルギーを節約することができ、より合理的な行動をとることができるのです。

1. 目標設定と進行状況の可視化

 目標設定は、モチベーションを高める上で重要な役割を果たします。子どもたちと一緒に短期的および長期的な学習目標を設定し、それらを目に見える形で表示することが有効です。進捗をトラッキングすることで、子どもたちは自分たちの成長を目で見て感じることができます。この進行状況の可視化は、小さな達成感を与え、さらなる努力へと導くことができます。

2. ナッジ理論の活用

 ナッジ理論は、人々の選択をより良い方向に微妙に促すアプローチです。ナッジとは「そっと後押しする」「ひじで軽くつつく」という意味の英語です。子どもが勉強する環境を整えることは、学習へのナッジとなります。たとえば、静かで整理整頓された勉強スペースを用意する、学習に必要な資材を手の届くところに置くなど、学習行動をとりやすくする工夫があります。また、勉強時間をルーティンとして確立することも、良い習慣を形成するのに役立ちます。

3. 報酬システム

 行動経済学では、即時の報酬がモチベーションを高めることが示されています。勉強することで得られる長期的な報酬(良い成績、知識の習得など)は抽象的であり、子どもたちには理解しにくいかもしれません。そこで、短期的な報酬を設けることが推奨されます。例えば、一定の勉強時間を達成したら、好きな活動(ゲームなど)を少しする時間を与えるなど、勉強と報酬を直接的に結びつけることはとても有効です。

4. 選択の自由

 人は選択肢を与えられると、より頑張ることができます。子どもたちに、何を勉強するか、いつ勉強するかなど、いくつかの選択肢を提供しましょう。完全な自由を与えるのではなく、親が設定した少数の選択肢の中から選ばせることが大事で、子どもたちは自分で決定したという満足感を得られます。

5. 社会的証明と同調効果

 人は他者の行動に影響を受けやすいという特性を持っています。これを社会的証明や同調効果と言います。子どもが学習に前向きになるよう促す一つの方法は、学習習慣が良い友人や兄弟姉妹、または有名人のポジティブな例を示すことです。家庭内で親が読書や自己啓発に時間を割く姿を見せることも、強力な模範となります。子どもたちは自然と、自分たちの周りの人が大切にしていることをマネしようとします。

 6. 失敗からの学び

 行動経済学によれば、失敗やミスから学ぶことは非常に価値があります。子どもたちに対して、間違いは学習プロセスの一部であり、失敗から学ぶことでさらに成長できると教えることが重要です。失敗を責めるのではなく、それを乗り越えることで得られる教訓に焦点を当てましょう。このアプローチは、子どもたちのレジリエンス(回復力)を高め、挑戦への恐れを減らすのに役立ちます。

 7.ゲーミフィケーション

 勉強をゲームのように楽しめるよう工夫することで、学習意欲を引き出すことができます。例えば、学習目標達成に応じてバッジを獲得するシステムや、友達や家族との勉強時間競争など、競争と協力の要素を取り入れることが有効です。ゲーミフィケーションは、勉強そのものを楽しい活動に変えることができます。

 子どもたちが勉強に興味を持つようになるためには、行動経済学の原理を応用することで、学習環境とモチベーションを最適化することが鍵です。目標設定、ナッジ、報酬システム、選択の自由、同調効果、失敗からの学び、ゲーミフィケーションといった戦略を取り入れることで、子どもたちの学習への意欲を高めることができるでしょう。

 

2024年2月

自己肯定感の育て方   2月15日

自己肯定感の重要性とその育て方について、スタンフォード大学オンラインハイスクールの校長である星友啓氏が著した「全米トップ校が教える自己肯定感の育て方」(朝日出版社、2022年)および「"ダメ子育て"を科学が変える!全米トップ校が親に教える57のこと」を読んで、新たな洞察を得ました。自己肯定感とは、自分自身を受け入れ、自己の価値を認識することを意味します。これは、心理学の二つの重要な概念、自己受容と自己価値に基づいています。しかし、外発的報酬に依存する自己肯定感は、短期的には効果があるかもしれませんが、長期的には心身に悪影響を及ぼすリスクがあります。

 ナルシシズムのように、自分が他人よりも特別で優れていると感じ、それに応じた承認や尊敬を求めることは、健全な自己肯定感とは異なります。本当に目指すべき自己肯定感は、ネガティブな感情を認めながらも、それらと上手く付き合い、現実の自己を価値あるものとして受け入れることにあります。

 ディフェンス型の心の適応力に頼りすぎず、現実を受け入れることの重要性には注意が必要です。人は複数の「顔」を持っており、例えば、職場の一員、家族の一員、趣味のグループのメンバーなどです。職場で挫折を経験したとしても、家庭内での役割や他のコミュニティで自己肯定を図ることができます。心への脅威は一つの側面に対するものであるため、他の側面を通じて自己肯定することで、心の適応を促進することが可能です。

 自己肯定感を高めるための具体的な方法として、ジャーナリングが効果的です。特に、ポジティブ心理学に基づいたTGTジャーナル(Three Good Things、良かったこと三つ)は、その日に起きた良いことを3つ記録するシンプルなエクササイズです。これを時間を定めて日常的に行うことで、自己肯定感を向上させることができます。

 人間の心の三大欲求である関係性、有能感、自律性を満たすことも、自己肯定感を高める上で重要な要素です。利他的な心を持ち、人に親切な行動を取ることで、自己肯定感と幸福感が同時に高まります。これは、人間の基本的な欲求を満たすからです。さらに、感謝の気持ちを持つことで、他人の目を気にせず、人間関係が改善されます。

 星友啓氏の著書から得られる教訓は多岐にわたりますが、最も重要な点は、自己肯定感の育成が、単に自分を良く感じさせること以上の深い意味を持つということです。健全な自己肯定感は、心の健康、人間関係の向上、そして幸福感の全般的な向上に不可欠です。外発的な報酬ではなく、内面から湧き出る自己肯定感を育てることが、真の自己成長と幸福への鍵となるのです。

2024年1月

勉強の意義 ー具体と抽象についてー    1月14日

はじめに:勉強の意義についての考察

 何故勉強するのか、これは誰もが一度は考える疑問です。私の考えでは、「勉強の意義は抽象的概念をしっかりと理解することにある」と言えます。この考え方は、細谷功氏の著書「13歳から鍛える 具体と抽象」(東洋経済新報社 2023)にも反映されており、彼の言葉が私の考えをうまく表現しています。

 具体から抽象へ:教育の進行

 子どもたちは学校で具体的な事実やデータから学び始めます。数学の方程式や歴史の事件など、これら具体的な知識は、広い視野で捉える抽象的な思考につながるとき、真の価値を発揮します。つまり、具体的な知識や技能が大きな概念や原則に結びつくことで、深い理解が生まれるのです。

 知のピラミッド:細谷功の説明

 細谷は「知のピラミッド」という概念で、知識量と抽象的思考力の関係を説明します。三角形の底辺が知識量、頂点の高さが抽象的思考力を示し、面積は知的な力を表します。このモデルは、具体的な知識と抽象的思考の重要性を視覚的に示しています。

数学の重要性:抽象的思考への架け橋

 数学はその本質において非常に抽象的な学問です。概念や定理は具体的な事例を超え、普遍的な原則を示します。数学的思考は論理的推論や問題解決スキルを育成する上で不可欠であり、現実世界の問題解決においても重要な役割を果たします。

コミュニケーションにおける具体と抽象のバランス

 効果的なコミュニケーションでは、具体と抽象のバランスが求められます。例えば、優れた教師は具体的な事例と抽象的概念を組み合わせて学生の理解を深めます。このバランスが、コミュニケーションをより豊かで意味のあるものに変えます。

 結論:日常生活と専門的活動における具体性と抽象性

 学術的な研究や専門的な領域では、具体的なデータと抽象的な理論のバランスが重要です。新たな知識や洞察はこのバランスから生まれます。日常生活や専門的な活動においても、具体性と抽象性を適切に活用することが、深い理解と効果的なコミュニケーションにつながるのです。