小児科・アレルギー科・小児皮膚科

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院長ブログ 2022

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2022年12月

オーディブル読書のすすめ  2022年12月28日

勝間和代さんのYouTubeで、アマゾンaudibleが1ヶ月1500円で聴き放題なのがとてもいいと勧められていたので8月から聴き始めました。

 月平均で40-50時間聴いているので1日当たり1.5時間になります。主に車の中で聴いていますが食事中やボーっとしている時などにも聴いています。

 この5ヶ月で44冊の本を耳読してきました。オーディブルの良い点は、本が携帯の中に納まっているので物理的に邪魔にならないことが挙げられます。家でも職場でも大量の本の整理に悩んでいる私にとっては最大の利点です。また、7500円で44冊を聴いているので、1冊当たり170円の計算になりとても経済的です。

 読んだ本の種類は多様です。文章術や話し方勉強法などのノウハウ本が10冊。勉強するモチベーションを上げるのに気軽に聴けてとても効果的に感じました。

 これまでに知らない分野の本のとっかかりにも有効です。特に面白かったのが「人類と気候の10万年史」と「面白くて眠れなくなる植物学」でした。いずれも実物の本も買って繰り返して読んでみました。

 しかし、一番良かったのは小説です。プロの話し手がとても気持ちよく読んでくれて、目で見る読書よりも臨場感を感じることが多くありました。

 シャーロックホームズシリーズと名探偵ポワロシリーズは計12冊ほど耳読をしました。登場人物によって声色を変えてくれるのでとてもリアルに感じることができました。多くは10から20代で読んだ本ですが、内容はすっかり忘れていたので楽しめました。特にシャーロックホームズの事件の多くは1時間で解決するので登場人物の関係を忘れることもなく、手軽に楽しめるのでお勧めです。

 何といっても一番面白かったのは、逢坂冬馬氏の「同志少女よ、敵を撃て」でした。オーディブルでの人気がNo.1だったのも納得です。独ソ戦で活躍した女性狙撃手の話ですが、彼女の周りの人たちとの関わり、戦場でのリアルな描写など圧巻でした。15時間以上の話でしたが、全く飽きることはありませんでした。

 その他にも、オーディブルで初めて知りファンになった作家もいました。米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は、子ども時代にプラハ・ソビエト学校で過ごした著者が、大人にいなってから外国の友だちを訪ねる話です。とてもリズム感のある文章を心地よく語ってくれるもので大好きになりました。

 垣谷美雨さんの本もとても新鮮でした。「あなたの人生、片づけます」が面白かったので、「あなたのゼイ肉、落とします」「リセット」「姑の遺品整理は、迷惑です」まで楽しく聴きました。

 まだまだ、魅力的な本がたくさんあり10数冊をライブラリーに入れています。もっと本を読みたいけど時間がないと言う人には、オーディブル読書はとてもお勧めです。

2022年11月

死は存在しない    2022年11月30日

死後の世界はあるのか? 

 あるとするとどんな世界であろうか?

 科学は死後の世界について何か言えることはあるのだろうか?

 この本はこんな疑問を持っている読者に量子科学の観点から説得力のある仮説を提示してくれる。

 私は科学者の中で一番優秀な人は物理学者だと思っている。この我々の存在する宇宙の秘密に最も迫ることができるのは物理学であり、その最先端は量子科学だ。

 物理学を学んだ著者の田坂氏は死後の世界を「ゼロポイント・フィールド仮説」から導き出すことができるのではないかと述べている。

 「ゼロポイント・フィールド仮説」とは、「この宇宙に普遍的に存在する量子真空の中にゼロポイント・フィールドと呼ばれる場があり、この場に、この宇宙のすべての出来事のすべての情報が記録されている」という仮説である。

 にわかには信じがたい仮説であるが、とても賢い物理学者が提唱している仮説であるから頭から否定することはできない。

 『我々の意識は、「現実世界」の「現実自己」が死を迎えた後、ゼロポイント・フィールド内の「深層自己」に中心を移す』であり、このゼロポイント・フィールド内の深層自己は宇宙意識とも言える、と著者は述べている。

 宇宙意識と言えば、SF作家のアーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」がすぐに頭に浮かぶ。「幼年期の終わり」は私が最も好きなSFで、これまでに繰り返し読んできた。人類の幼年期が終わり、宇宙意識に子どもたちが進化していくという話だった。SFの話が量子科学の観点からもあり得るというのは、ちょっとした驚きである。

田坂氏は、生きている間にも「ゼロポイント・フィールド」とつながる体験はあると主張している。不思議な直感や以心伝心、予知や予感などはゼロポイント・フィールドとつながったことから起きているのではないかというのだ。

 田坂氏の言っていることに全面的に納得するわけではないが、とても興味深い仮説だ。死後も変わらない自己が存在し、更に宇宙意識に拡大するという物語は壮大で気持ちがいい。著者の世界観に引き込まれて今後も何度か読み返したい本だった。

2022年10月

YouTubeとテレビ   2022年10月31日

半年ぐらい前からYouTubeを見る時間が長くなっている。以前から気に入ったチャンネルを見ることはあったが、チャンネル登録をするようになり見ることが急激に増えてきている。

 物心ついた時からテレビのある最初の世代なので、テレビに愛着がある。家族団らんの場にはテレビが必ずあった。学生時代の一時期を除いて毎日のようにテレビを見ていたが、最近は大谷の出場する大リーグ中継を除くと、テレビよりYouTubeを見る時間が徐々に長くなっている。

 特に地上波のテレビのニュースやワイドショーなどでは、例えばウクライナ情勢や日本や世界の経済状況の説明が浅く、説得力がない。それに比較してYouTubeを検索すると自分が知りたい情報を専門家が直接説明してくれる。自分の見たい時間にいつでもアクセスできるのもありがたい。

 数えてみるとYouTubeのチャンネル登録はすでに17件になっている。ジャンルはニュース・時事関連、音楽系、健康・スポーツなどで、私が個人的に面白いと思うキャラクターの人物のチャンネルを登録していることが多い。

 特に最近よく見ているYouTubeチャンネルは、「山田五郎 オトナの教養講座」「岡田斗司夫チャンネル」「勝間和代が徹底的にマニアックな話をするYouTube」「高橋洋一チャンネル」だ。

 山田五郎氏のチャンネルは絵画を通して様々な画家の生活やその時代についてとても分かりやすく説明してくれる。ワダさんという若い女性との掛け合いも面白いので最後まで楽しく見ることができる。とても良質の教養番組になっているのでお勧めだ。

 オタキング岡田斗司夫氏は、10年ぐらい前に「評価経済社会」という本を読んでとても気になっていた人物だった。YouTubeを見てみると物事を見る切り口の鋭さには驚いた。自らサイコパスと称しているが、様々な人生相談の答えたり、未来を見通す眼力は素晴らしいと感じている。

 勝間和代氏のチャンネルはほとんどが5分以内で彼女らしく簡潔に主張がまとまっているので、ちょっとした時間に見ることができる。もともと著作のファンなのでなるほどと感心することがとても多い。最近では彼女が勧めるアマゾンaudibleを聴きはじめ、読書の幅が大幅に広がった。

 高橋洋一氏については、以前は名前だけ知っていたが、YouTubeを見始めてからこんな面白い人がいたのか驚いている。高橋氏は元大蔵官僚(現在の財務省)で、政権の中枢に近いところにもいた人物。面白いのは理系中の理系の人で論理が徹底している点だ。すべてデータに基づいて解説をしているので非常に結論はわかりやすい。ただ、半分理系で半分文系の私には、その論理を理解することは難しい。すべてデータを分析した図や表を作ってから物事を分析するやり方はとても参考になる。

 外来で子どもたちに好きなテレビ番組を聞いても答えてくれることは少なくなり、好きなYouTubeチャンネルはたくさん挙げてくれる。今の子どもたちにとってはテレビよりYouTubeの方がはるかに親しみのあるメディアになっているようだ。

 ヨーロッパの若者の間でサッカーに無関心な割合が急激に増えているという話がある。サッカーと言えば世界で最も人気のあるスポーツで、特にヨーロッパでは圧倒的に人気を誇っていると思っていた。その原因として、「可処分時間の配分」の問題があるといわれている。若者がネットなどを見るようになり限られた時間を何に振り分けるのか、YouTubeやSNSとテレビ、スポーツ観戦などが時間の奪い合いになっている。90分間の試合で点があまり入らないサッカーは時間の無駄と感じる若者が増えているということだ。ワールドカップなどのビッグイベント以外のリーグ戦の観戦に特に影響が出ているようだ。

 確かにYouTubeやSNSに魅力的なコンテンツが増えているので、一つ一つのコンテンツにあまり時間がかけられない感覚がある。実際、私の場合YouTubeを見る時には、再生速度は1.25倍から1.5倍のことが多い。中には映画を見る時に1.5倍速で見ている人もいると聞くが、さすがにそれでは映画が楽しめないのではないかな、と思う。

 「可処分時間」をあまりに意識して、忙しくし過ぎるのも問題だと思う。しかしそれにしても、見たいもの知りたいもの聴きたいものが多すぎて困っている。

2022年9月

ノウハウ本の功罪   2022年9月28日

私はノウハウ本が大好きです。おそらくこれまでに100冊は優に超えるほど読んできています。ここ1ヶ月でも7冊買ったところです(全部は読んでいませんが)。

 ノウハウ本の功罪について考えてみました。まずは、メリットについてです。

 まず第一に人生の方向性を考えさせられるきっかけになったことが挙げられます。10代後半に読んだのは、東大教授の物理学者竹内均先生の著書(頭をよくする私の方法など)や渡部昇一氏の「知的生活の方法」でした。これらの本を読んで「生涯勉強を続けよう」という自分の人生の「骨太の方針」を決めたものでした。

 次にノウハウ本の方法そのものが実生活で役に立つことです。私は学生時代を通して整理整頓がとても苦手でした。しかし、大学時代には論文の資料やデータ、書類が山のように押し寄せてきて対処に困っていました。その時に役に立ったのが、野口悠紀雄氏の著書の「超整理法」でした。「A3の茶封筒にテーマごとに書類を入れて、使ったものは左側に置く」というシンプルな方法で、とても楽に整理整頓ができました。

 3番目にノウハウ本を読むことでモチベーションが上がることが挙げられます。私の場合は、特に斎藤孝さんや勝間和代さんの本がそれにあたります。斎藤さんや勝間さんとは考え方が近いこともあり、著書を読むと「そうだ、そうだ」と同調できることが多く、気分がよくなります。親しい仲間と話して同意してもらえたような感覚です。

 今度はノウハウ本のデメリットについてです。こちらも3点あげられます。

 まず、自分のレベルを把握せずにレベルの高いノウハウ本を読むとうまくいかないことです。英語の勉強では失敗しました。自分の実力を過大評価してレベルの高い本を読んで空回りした勉強をして、全く実力がつかなかった経験をしました。実力に合った本で作戦を立てて地道に勉強していればと後悔したものです。

 次に、ノウハウ本を読み過ぎて方針が決まらずに右往左往してしまうことです。健康長寿に関するノウハウ本がたくさん出版されており、つい読みたくなり買ってしまいます。それぞれの本で主張されていることは様々で矛盾したことも多くあります。少し実践してみては、他の本を読んで方針を変えてみたりと心が定まりません。あまり読み過ぎはよくないと思っているこの頃です。

 最後に、「読んで満足して実践しない」問題です。一番痛切に感じるのは「文章の書き方」についてのノウハウ本です。数えてみるとこれまでに20数冊読んでいますが、読んで満足して終わってしまい実際に文章を書いていないのです。この文章を書いたのを契機に、文章術のノウハウを実践したいと決意しています。

 考えてみると、私は高校時代からノウハウを考えるのが大好きでした。大学受験を意識して「いかに最低限の時間の勉強で第一志望の大学に合格するか」という方法を追求していました。その後も「もっとうまい方法があるのではないか?」を考えてノウハウ本を読んできました。今後も上記にまとめたメリットとデメリットを意識しながら、ノウハウ本と付き合っていくつもりです。

2022年8月

手の倫理   2022年8月31日

講談社選書メチエ 2020

前回に引き続き読書会の課題本の話です。この本は人が人に手でさわる/ふれることから人と人のコミュニケーションや倫理、信頼とは何かを問う内容です。

 ヨーロッパで言うと、長い中世が終わり「近代的な個人」という人間像が確立してから、「他人と濃厚に接触することを不快に思う人間」が誕生したとされています。「文明化とは不快や不安を感じる範囲が推移すること」であり、肉体的接触が時代とともにより少なくなっています。私の経験でも昭和の時代と比較しても家族以外にさわる/ふれることは極端に少なくなっています。以下にこの本の中で気になったところをいくつか挙げてみます。

 【体育の授業が根本のところで目指すべきものって、他人の身体に失礼でない仕方で触れる技術を身に付けることだと思うんです】

 著者の知り合いの体育の先生の言葉です。確かに人の身体に触り慣れていないと相手に不快感を与えてしまうことがあるような気がします。体育の授業の目的が「失礼のない仕方で人に触ること」というのはとてもユニークな切り口で、機会があれば使ってみたいフレーズです。

 【安心とは、「相手のせいで自分がひどい目に合う」可能性を意識しないこと、信頼は「相手のせいで自分がひどい目に合う」可能性を自覚したうえでひどい目に合わない方に賭けるということです。】

 「信頼とはある種の賭けなんだ」ということに気付きました。しかし、人間関係は信頼からスタートする方が楽ですね。安心を求めすぎると何もできなくなってしまいます。信頼を裏切られたらその時に考えればいいのです。「結果的には信頼の方が合理的」という著者の結論に全く同意します。

 【私もアイマスクをして伴走者と(ロープをつないで)走る体験をしたときには、とてつもない恐怖と不安で、最初は足がすくんでしまいました。(中略)でもある瞬間、実際には走り始めてほんの数分のうちに、こうした不安と恐怖から私は離れていきました。(中略)まさに不確実な要素があると自覚しながらも、ひどい目に合わないだろうと「信頼」した瞬間でした。】

 私はもちろん経験はありませんが、暗闇の中を走るのはとても大きい不安を感じるだろうと容易に想像できます。まかせてしまった方がとても楽になります。上記の言葉に関連して以下の表現が印象に残りました。

 【あずけると入ってくる。これがメディアとしての体のやりかたであり、接触したときの倫理の基本です。(中略)相手への深い信頼を前提にする分、意識していないものまで入ってきます。】

 本の趣旨からは外れてしまいますが、この言葉から思い浮かべたのは、私が若いころから親しんだ浄土真宗の信心です。浄土真宗では「阿弥陀仏に帰依する」のは、自力を捨ててすべてを阿弥陀仏にまかせる体験です。宗教体験は他の五感ではなく皮膚感覚に近いかもしれないと感じました。

 その他にも①倫理と道徳の違い、②リスクがあった方が人は生き生きする、③言葉が共鳴を切断する、など一つ一つ時間をかけて語りたくなるテーマが満載でした。とても読みごたえがあるお勧めの本です。

2022年7月

認知行動療法・マインドフルネス・スキーマ療法 2022年7月28日

読書会の課題本の伊藤絵美さんの「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」(医学書院 2017年)を読みました。とても面白かったので伊藤氏の本を立て続けに読んでみました。

 伊藤先生は臨床心理士として有名な方で、特に日本における認知行動療法(CBT)の第一人者です。CBTはかいつまんで言うと「自分のストレスに気付き、その時の自分の認知、気分・感情、身体反応、行動をモニタリングする。そのうえでアセスメントをして認知あるいは行動を変えること」ということになります。

 伊藤先生はCBTだけでは対応できない人のためにマインドフルネスとスキーマ療法を学んで身に付けています。

 マインドフルネスとは「今・この瞬間の自分自身の体験にしっかりと触れられるようになるための技術」です。また、スキーマ療法とは「自分の生きづらさの根っこを知り、その根っこによる影響を日々の生活のなかで実感しつつ、それを乗り越えていくための技術」です。

 これらの定義を知っただけでは正直ピンとこないのですが、伊藤先生は具体的な症例を通じてこれらの療法が患者さんのストレスをいかに改善するかをとても分かりやすく提示しています。

「つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。」の本の中では、「オレ様開業医のヨウスケさん」が登場します。背中の痛みがあり病院で医師からCBTを勧められて伊藤先生のところに行き始めます。自己愛性パーソナリティ障害の要素が多分にあり、自分の感情に気付くことはできず、妻には暴力をしばしばふるい離婚を迫られています。CBTになかなか導入できず、マインドフルネスを始めてセルフモニタリングができるようになりCBTができるようになりました。そこでさらに小児期からの深い問題がありスキーマ療法に進み、のびのびとした明るいキャラクターの「ニューヨウスケさん」に変貌していきます。治療の終了まで約4年。最終的には妻との関係も改善しています。

 「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法」では、ナースのマミコさんが回復していく話です。幼少期に両親と離別して祖父母に虐待され就職先でも性被害に遭うという逆境で、その後一念発起してナースになったという経歴です。境界性パーソナリティー障害の彼女が、CBTを始め、マインドフルネスとスキーマ療法を丁寧に時間をかけて行って魂が回復していく物語はとても感動的です。

 ヨウスケさんやマミコさんのような患者さんだけでなくストレスに対するセルフケアについて書かれた「セルフケアの道具箱」も具体的で自分でもやってみたい方法がたくさん書かれています。スキーマ療法は自分で行うのは難しそうですが、CBTやマインドフルネスはストレスをため込まないためにも自学自習して身に付けたいと感じました。

2022年6月

自閉症スペクトラムとTMS(経頭蓋磁気刺激)2022年6月29日

「ひとの気持ちが聴こえたら」(ジョン・E・ロビソン著 早川書房 2019)はアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム:ASD)の著者がTMSの治療を受けた経験を綴った面白い本です。TMSとは頭蓋の上から脳の特定の部位を磁気刺激する治療法で、うつ病の治療では日本でも保険適応になっています。

 ロビソン氏は若いころには音響技術者、その後自動車修理会社の経営者として社会的にはある程度成功していました。他人の感情や場の空気が読めないことに苦しんでいたため診察を受けアスペルガー症候群の診断を受けました。自分で本を書いたところ世間から注目され、研究者からTMS治療の治験に参加することを要請されました。

 好奇心旺盛なロビソン氏はTMS治療を1回受けたところ衝撃的な体験をするのです。これまで聞いていた音楽がとても新鮮でシンガーと感情を共有する体験をします。色覚障害者が初めて色を見たようだと表現しています。その後繰り返しTMSを行い、他人の言葉の裏にある感情が見えるようになります。以前から親しくしていた友人が実は自分のことをバカにしていたことに気付き、付き合いをやめました。また急激な変化に妻がついていけず離婚することになります。しかし、一方で新たな心地よい人間関係が生まれ、著者自身はTMS治療後の方がとても幸せだと述べています。少なくとも数年は効果が持続しています。

 また、TMS治療前に本の紹介のためにYouTubeに挙げた動画ではまるでロボットがしゃべっているようだったのが、治療後の動画ではにこやかな話ぶりになり明らかに改善しています。

 一方でASDの10代前半のニックという少年はTMSの治療を受けて「砂嵐だらけのテレビ画面越しに世の中を見ているようだったけれど、TMSを受けた後は砂嵐が消え、いろんなものがはっきり見えた」と体験を語っています。学校生活が快適なものになり対人関係も改善しました。しかし、やがて効果は薄れ数か月後には元の状態に戻っています。

 現在のASDに対するTMS治療の研究論文では、こだわり、社会性、実行機能、認知機能の改善が認められたとの報告はありますが、まだ明らかな有効性は確認されず、刺激部位や回数なども含めて検討が必要な段階のようです。

 これに関連して脳のデジタルツインを作る研究も始まっています。それぞれの脳の病態を特徴づける高度な脳モデルを拡散テンソル画像を含むMRIや脳波などから開発して、TMSの生理学的効果を予測する研究です。脳をどのように刺激すると状態を変えられるかをシュミレートすることでアルツハイマー病なども含めて脳の状態を変化させようというプロジェクトです。

 「脳の地図を書き換える」(デイヴィッド・イーグルマン著 早川書房 2022)は、脳は「ライブワイヤリング」だと主張しています。「ライブワイヤリング」とは「世界の変化に適応するために常に自らを再構成し続ける性質」のことで、神経細胞は環境に対応して常に新たなシナプスを形成して変化し続けているのです。

 興味深かったのは、著者らが開発した「ネオセンソリー・ベスト」です。胸に装着したベストが周囲の音を補足し、皮膚と接する複数の振動モニターにその信号を割り振る装置です。これを身に付けていると脳が情報を読み取って周囲の音の世界を感じることができるというのです。

 TMSなどの脳刺激によって脳の神経回路をより人にとって変えていく研究はとても将来性があるように思います。

2022年5月

読んでいない本について堂々と語る方法 2022年5月15日

 以前から読書会で話題になっていたこの本をついに読んでみました。ドキッとする本の題ですが、読んでみて読書好きほど読むべき本だと感じました。

 著者のピエール・バイヤールはフランスの大学で文学を教えている教授で精神分析家でもあります。この本の主張は「本は読んでいないでもコメントできる。いや、むしろ読んでいない方がいいぐらいだ」ということです。

 まず読書家は次の三つの規範を信じていることを挙げています。①神聖とされている本を読んでいないことは許されない。②本は最初から最後まで通読するべきだ。③本について語るには読んでいなければいけない。しかし、著者はこれらの規範にとらわれることでかえって弊害を招くことになる。的確に本について語るためには全部読んでいない方がいいと主張しています。確かに私自身もこれらの規範にとらわれすぎて本の内容を自分のものにできていないことが多いと反省させられます。

 『テクストの細部にひきずられて自分を見失うことなく、その書物の位置づけを大づかみにとらえる力こそ「教養」の正体だ。』という言葉には説得力があります。

 著者は読んでいない本にもレベルがあり、①全く読んでいない本、②流し読みをした本、③人から聞いたことがある本、④読んだことはあるが忘れてしまった本、に分類しています。

 これらの中で『「流し読み」は本をわがものにする最も効果的な方法かもしれない』という文章が気になりました。「流し読み」はディテールに迷い込むことなく本が持っている本質をつかみやすく知性を豊かにする可能性があるのです。まれにみる読書家で博識の人だったオスカー・ワイルドは読まないことを推奨した作家で、1冊の本を読むのに適した時間は10分と述べています。

 『「読書のパラドックスは、自分自身に至るためには書物を経由しなければならないが、書物はあくまで通過点でなければならないという点にある。よい読書を実践するのは様々な書物を「横断」することにある。』という言葉は今後も肝に銘じていきたいものです。

私は気になるとすぐに本を買ってしまうので100冊以上積読になっています。今後は流し読みをして面白そうならもうちょっと読んでみるという読書スタイルにしてみます。残りの人生で読める本も限られます。身につく読書をしたいとつくづく思います。

2022年4月

春季卓球社会人リーグの記録  2022年4月27日

先日1年ぶりに卓球の愛知県社会人リーグが開催され参加しました。愛知県は卓球が盛んな県の一つで社会人リーグも男子は37部まであり、一つの部に6チームあるので現在221チームが登録しています。6チームでリーグ戦を行い、1,2位が昇格し、5,6位が降格するシステムです。春と秋にリーグ戦が開催されるのですが、コロナ禍でここ2年で2回中止になっています。

 わがチームは下から5番目の33部。昇格してくる若手中心のチームと、降格を重ねる低迷した高齢者中心のチームが混在しています。私たちのチームは後者に当たります。

 団体戦は4シングル1ダブルスでシングルとダブルスに同時に出場することはできません。私は5試合すべてシングルで出場しました。

 第一試合は20代の右利きシェイクハンドの相手。それほど攻撃力のない相手で普通にやれば勝てそうな印象でしたが、最初の試合で身体が思うように動かない。1,2セットはジュースになりましたが、最後に何とか取ることができました。3セット目は少し調子が出て、3-0で勝つことができました。

 第二試合は20代の左利きシェイクハンドの相手。私も左利きなのでお互いにやりにくい印象でした。相手のドライブも威力があり、厳しい戦いを予感しました。しかし、私のバックハンドサーブにてこずっている様子が分かり、サーブで揺さぶって得意のドライブを決める作戦が奏功。2-1でリードしての4セット目は最後にいわゆる「ゾーン」に入った状態で9本連取して快勝でした。

 第三試合は同年代の老練な右利きペンホルダーの相手。2試合を戦った後で疲れを引きずりながらの試合でしたが、最初の2セットは相手のミスもあり連取しましたが、3,4セットは身体が動かず取られ、最終セットへ。最終セット前にチームメイトからハッパをかけられ奮起して身体を動かしてドライブを打ちまくり11-3で勝ちました。

 三連勝した気楽さから第四試合は冷静に臨むことができました。相手は20代の右利きシェークハンド。バックハンドサーブが有効でドライブも面白いように決まり、2セット連取。3セット目の途中でチームの負けが決まったので中断となりましたが、自分の中では「勝利」と決めました。

 五試合目の相手はまたしても20代のシェークハンド。1セット目は11-5と取り、2セット目は5-11と失った3セット目。相手のサーブにも慣れ、やはりバックハンドサーブが有効で3セット目もとることができました。4セット目は最後の力を振り絞ってドライブも決まり3-1で勝利。

 18年前から参加している社会人リーグで初めての個人としての5連勝です。特に20代の相手4人に全勝したのは我ながらすごいと自画自賛しています。また、試合の最中に久しぶりに何度か「フロー体験」ができたことも喜びでした。

 チームメイトからは「20代の相手には左ペンホルダーのバックサーブが効いていたね。今時そんな選手はいないからねー」と言われました。要するに私は「卓球界の絶滅危惧種」ということのようです。サーブで若者の頭の中を混乱させ、その間にどさくさに紛れて勝っているということなんでしょう。

 残念ながらチームは1勝4敗と6チーム中の5位となり、降格が決定してしまいました。いずれにしてもとても気持ちのいい卓球を楽しむことができました。週1でやっている練習と筋トレを継続して、長く楽しい卓球が続けられるようにしたいものです。

 社会人リーグでこれだけ勝てることは二度とありそうにないのでここに記録しました。

2022年3月

メタバースと自閉症スペクトラム  2022年3月29日

 中央大学国際情報学部教授の岡嶋裕史氏の著書の「メタバースとは何か」と「大学教授、発達障害の子を育てる」を読みました。岡嶋教授の独特な考え方が色濃く出ていてお勧めの本です。

 岡嶋教授の息子さんが「自閉症スペクトラム」の診断を受けていますが、岡嶋教授自身もかなりユニークなキャラクターです。岡嶋教授自身が語る自分の成育歴は以下の通りです。

幼稚園では友だちがおらず、ひたすら帝国海軍航空機のスペックを覚えて諳んじていた。小学校の時には自分でプログラミングをして簡単なゲームを作って投稿していた。教科書をざらっと見るだけで覚えたので小学校の成績はよかった。朝起きられず、遅刻、欠席、早退が非常に多い。授業中に急にケラケラ笑うことがあった。セリフが一つしかない学芸会を回避するためにあらゆる仮病テクニックを駆使して欠席した。人の話を聞いていないように思われて、始末書を何度も書かされた。高校は行かずに大検取得。中学卒業後、大学に入学する20歳までの5年間は引きこもってゲームを1日中やっていた。これが至福の5年間だった。大学の修士課程を修了するまでの11年間はほとんど昼前に起きたことはない。偏食が激しく鮭と永谷園のお茶漬けだけで数年過ごした。醤油や焼き肉のたれは飲み物と思っている。

 岡嶋教授は対面でのコミュニケーションはかなり苦手なようですが、著書はたくさんありとても明快でわかりやすいものです。数冊読んでみたなかで、「メタバースとは何か」が特に興味深かったです。

 「メタバース」は最近はやりの言葉ですが、岡嶋教授の定義では「現実とは少し異なった理(ことわり)でつくられ、自分にとって都合がいい快適な世界」となります。現在あるゲームでは「フォートナイト」や「あつまれ 動物の森」が未熟なメタバースといえますが、これからメタバースがさらに進化して没入感の強い完結した仮想世界が登場すると考えられています。

今後メタバースが多くの人にとって希望の世界になると岡嶋教授を述べています(以下引用)。

 リアルが複雑化してその運営が行き詰まり、しかし個人主義の浸透で「人生を楽しめ」と圧をかけられ、敗者として生きることさえ許されなくなった。オンリーワンで価値ある人生にしろとすり込まれるのである。言う人はきっと強いのだろうが、リアルにそんな席は用意されていない。それでも人生を楽しめというのであれば、仮想現実は人生を過ごす環境として十分に選択したり得るのである。

 現在はSNSが居心地のいい空間になっている人たちがいますが、SNSの中に居続けられるわけではなく限界があります。今後の発展するメタバースではその中で仕事をし(仮想世界でのファッションや建築の専門家など)、自分のアバターで生活をするようになる可能性があります。この本の中で岡嶋教授が主張したいことは「それでいいじゃない、もう一つの世界で生きて、死のうよ」ということです。

 かなり過激な意見のようにも思えますが、現実の世界は本当に息苦しいのならメタバースの世界を中心に生きる選択肢は十分にありです。自閉症スペクトラムでリアルな世界で生きていくのがとてもつらい人たちには、メタバースの発展が救いになるように思います。

2022年2月

脳と人工知能をつないだら人間の能力はどこまで拡張できるのか  2022年2月26日

脳と人工知能をつなぐとどんなことができそうか? とても関心のあるテーマの本なのでワクワクしながら読んでみました。著者の一人の池谷裕二教授の本はこれまでも数冊読んでいます。最新の脳科学をとても分かりやすく伝えていただけるので大ファンです。もう一人の著者の紺野氏は池谷研究室の大学院生ですが、情熱的に分かりやすく脳と人工知能研究の進歩を示してくれています。

 内閣主導のムーンショットプロジェクトの一つとして「池谷AI融合プロジェクト」が始まっています。目標は「2050年までに人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する」という壮大なものです。

 人工知能の能力は日進月歩です。ムーアの法則でコンピューターの能力は18ヶ月で2倍になると言われています。最先端の人工知能のGPT-3の能力には驚きます。GPT-3はインターネット上の文章をひたすら入力して作られています。3000億単語、本にすると1000万冊前後の情報量です。「インスタグラムのようなアプリを作って」という指示を出しただけでそれなりのアプリを作ることができます。また、簡単な指示を出しただけでGPT-3が書いたブログ記事が閲覧数ナンバーワンになっています。人工知能の定義の一つのチューリングテストに合格していると言えるレベルに達しています。

 特に興味深かったのは難治性のうつ病患者の治療についてのUCSFでの研究です。

Closed-loop neuromodulation in an individual with treatment-resistant depression Nature Medicine volume 27, pages1696–1700 (2021)

 まず、この患者にDBS(深部脳刺激療法)デバイスを慢性的に腹側内包/線条体と扁桃体に数週間留置します。そして、この患者に特有のうつ症状のバイオマーカー(特徴的な脳波パターン)を発見。その結果、扁桃体ガンマパワー(脳波)がうつ症状のバイオマーカーとして有用ということが分かりました。次に刺激によりうつ症状が改善する脳領域を探り、右腹側内包/線条体の刺激がうつ症状を改善させることが分かりました。右扁桃体の神経活動を常に記録し、ガンマパワーの上昇が検出された場合に、リアルタイムに右腹側内包/線条体を刺激する治療法を行いました。その結果、急速かつ持続的にうつ病を数か月以上改善させることができたのです。この治療法が確立すれば、薬物療法が無効の激しい癇癪に対しても応用できそうです。

 また、世界一の富豪で資産35兆円と言われるイーロンマスク氏が設立したNeuralink社の研究が注目されています。豊富な資産で優秀な研究者を集めて急速に研究が進歩しています。「人類が自らの脳を人工知能と接続することで、人工知能を超えるような超人類になること」を目標に掲げて、実際にテクノロジーの上で成果を上げています。

 自然に反するなど批判もある分野だと思いますが、個人的には肯定的に捉えています。とても興味がある分野なので、最新の情報をフォローしたいと思い、紺野氏のメールマガジンの登録しました。人類がどこまで到達できるのか、長生きをして見極めたいと願っています。

2022年1月

科学者たちが語る「食欲」   2022年1月29日

「科学者たちが語る食欲」(サンマーク出版 2021年)はシドニー大学生命研環境科学部の2名の教授が書いた食欲についての興味深い本です。

 主に彼らのグループが行った、粘菌、ハエ、バッタ、コオロギ、ゴキブリ、クモ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、クモザル、マウンテンゴリラ、オランウータン、そしてヒトについての食欲研究結果をまとめた本です。

 さまざまな生物の研究から、それぞれの生物は本能的に最適な栄養素バランスを摂取しているということがわかりました。食欲は、タンパク質、炭水化物、脂肪、ナトリウム、カルシウムの5種類に分類されます。そのうちで「タンパク質欲」が最も強く、すべての生物でタンパク質が必要量に達するまで摂取します。

 そのためにヒトが低タンパク質の食品を食べていると摂取量が増えてしまいます。特にアイスクリーム、ケーキ、ピザ、ポテトチップス、朝食用シリアル、マヨネーズ、ケチャップなどの「超加工食品」は低たんぱく質、低繊維で安価なものが多く、ついつい食べ過ぎて肥満になるのです。

 それでは高タンパク質のものを食べ続けると肥満にもならず健康かというとそうでもありません。低タンパク質で高炭水化物を摂取する人は、高タンパク質で低炭水化物を摂取する人に比較して、寿命が長いことが分かっています。実際に超長寿地域「ブルーゾーン」のひとつだった沖縄の人々の食事はタンパク質比率が9%と食糧難の地域を除いて世界最低水準です。また、低たんぱく食で満足できる理由の一つに食物繊維を大量に摂取していることが挙げられます。食物繊維は食欲のブレーキの役割を果たし、腸内細菌叢のえさにもなります。

 その他にも興味深いのは住んでいる地域や年齢によってタンパク質ターゲットが異なることです。極北地方に住んでいるイヌイットやアメリカ先住民はタンパク質の必要量が高いために低たんぱく質の加工食品が普及すると過剰なカロリー摂取により肥満になる率がとても高いのです。また、赤ちゃんの時期は最も低いタンパク質比率がベストで、赤ちゃんの時期から高タンパク質色を摂取すると欲が強まるようです。タンパク質ターゲットは18歳以下では15%、18-40歳で17-18%、40-65歳で10-15%、65歳以上で18-20%とされています。

 総カロリーよりもタンパク質、食物繊維などに目を向ける必要がありそうです。小児の肥満の指導にも役に立つ科学的知見が満載の本です。

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